2022/08/16 Category:

地点によるイェリネク戯曲連続上演 開催決定!!

 

 

 


イェリネク戯曲を読んでいると、〈テレビ〉を感じます。二十世紀にテレビが登場して以来、人々はチャンネルを手に入れることになりました。イェリネク自身、このテレビの前から離れられなくなってしまった一人です。気が付くとリモコン片手にチャンネルを変えてるだけで何時間も過ぎてゆく。この〈ザッピング〉という感覚は、現代の象徴でもあり、ある種の病だと言って良いでしょう。たった5秒でその内容が分かった気分になる、次から次へとチャンネルを変えることで、この気分は高揚しやがて摩耗してゆく。

 

メディアという言葉は、ギリシャ悲劇の『王女メデイア』を起源とすると云われていますが、イェリネクは、今日のメディアのあり方を批評しパロディ化し盗むことによって現代の悲劇を書こうとする稀有な劇作家です。政治・宗教・戦争を背景に事件を告発する役割を果たしていた古典演劇が、二十世紀以降テレビというメディアにとって変わられたのだとすれば、イェリネクはそのテレビを見ながら、新たなメディアを見ようとしています。そこで選ばれたチャンネルは何周もした結果、演劇でした。

 

イェリネク作品が、否応無しにアクチュアルな問題を抱えるのは、テレビが登場する以前からメディアという病に敏感だったからだと言えます。この劇作家は古典から現代をザッピングすることで、社会情勢がどうなっているのか、そして個人の気分がどうなっているのか、映し出します。目まぐるしく。イェリネク戯曲を舞台で見ることの意味は、私たちが改めてチャンネルを選び、その選択が有効なのかあるいは無効なのかを考えることにあります。この考えるレッスンはギリシャ悲劇から今日まで続いているということを教えてくれるのが、彼女の演劇なのです。

 

 

三浦基

 

 

この度地点は、オーストリアのノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネクが東日本大震災とそれに続く原発事故をモチーフに書いた『ノー・ライト』(2011年)、世界を襲った新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを描いた『騒音。見ているのに見えない。見えなくても見ている!』(2021年)を連続で上演いたします。

 

ちょうど10年の時を隔てて書かれたふたつのテキストを続けて上演することで、この間の世相・政治状況・自然環境の変化、作家・イェリネクの文体の変化、地点の方法論の変化を感じていただきたく思います。コロナ禍で生活は様変わりし、オンデマンド放送の需要が飛躍的に拡大したとも言われます。一方で日本では20〜30代の半数はすでにテレビを見ないという調査結果もあります。わたしたちがフィクションに求めるものとはなにか、いまフィクションでなにを見たいのか、そのような問いを反芻しながら、同じ場所・同じ時間を共有しなければ味わえない演劇ならではのフィクションをたちあげます。
 
チケット発売はいずれも2022年9月17日(土)となります。先行発売・各種割引情報を含む公演の詳細については各演目のページをご確認ください。皆様のご来場をお待ちしております。
 
 
『ノー・ライト』〈マルチリンガル公演〉公演情報はこちら
『騒音。見ているのに見えない。見えなくても見ている!』公演情報はこちら