2016/07/18 Category:

雑誌『地下室』創刊準備企画 レクチャー&トーク開催のお知らせ

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今日もあちらこちらで「リアル」がもとめられています。
劇場のなかで、俳優の「リアル」な演技は賞讃の的となっているでしょうし、
劇場のそとで、政治家のことばは「リアル」さを要求されているでしょう。
もちろん、最終的につかまされるのは、にせものの「リアル」なのかもしれない。
しかし、それに失望すればするほど、ほんものの「リアル」への欲望はますますつよくなる。
「リアル」というのは、その意味で、つよい力をもっているわけです。
わたしたちは、その意味で、いやおうなく「リアル」のただなかに生かされているわけです。
 
その一方で、「リアル」とは、いってみれば、「あるある」ではないでしょうか?
「あるある」と、現在を過去に照合して安心することではないでしょうか?
そして、この安心は、未来になにか新しいものが生じるのを妨げはしないでしょうか?
「リアル」というのは、現在とはなにか別のものをもとめるひとを窒息させるものではないでしょうか?
 
しかし、わたしたちはとにかく生きていかなければならない。
だから、このように、わたしたちを生かしも殺しもする「リアル」というレジームのことを考えなおしたい。
いまわたしたちが劇場で「リアル」というレジームのことを考えなおすとき、手がかりになるとおもわれるのは、演劇にとどまらず映画にまでひろくふかく滲透している演技メソッド、スタニスラフスキー・システム(通称スタシス)です。
 
そのスタシスは、じぶんこそが真の「リアル」であると主張するものです。
しかし同時に、それは、20世紀のはじめに、ロシアという国で、生まれたものです。
そうした時代と地域に固有のコンテクストのなかから、20年から30年かけて、次第にかたちづくられてきたものです。
 
そうしたものがなぜ生まれてこなければならなかったのか? 理由があるわけです。
その理由をはっきりさせることで、ふだんわたしたちがもっている「リアル」という感覚を、すこしでも相対化してみたいとおもいます。
 
このレクチャー&トークでは、演劇学・20世紀演劇史が専門の永田靖さん(大阪大学大学院文学研究科)をお招きし、第1部で〈スタシスがどのようにして生まれてきたのか〉を語っていただくとともに、モスクワ芸術座の『かもめ』を素材に、〈スタシスとは何なのか〉をあきらかにしていただきます。
 
それをふまえて、第2部では、地点の演出家・三浦基を交え、また「観客」のみなさまとともに、
わたしたちの現在地からスタシスをふりかえりながら、〈わたしたちにとってスタシスとは何なのか〉あるいは〈スタシスにとってわたしたちとは何なのか〉を考えていくつもりです。
 
今夏、わたしたちの「リアル」を考えなおすために、アンダースローにお越しください。お待ちしています。
 
 
赤嶺宏介/『地下室』編集部
 
 
 
 
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雑誌『地下室』創刊準備企画
レクチャー&トーク
 
スタシスとはなにか?
 
 
講師:永田靖(大阪大学大学院文学研究科)
聞き手:三浦基(地点)
進行:赤嶺宏介(『地下室』編集部)

2016年8月10日(水)18:00-21:00
会場:アンダースロー
 
料金:1000円(1ドリンク付)
ご予約:WEB予約もしくはTEL. 080-6189-9226
 
 
※永田靖氏によるレクチャーと、その内容を受けてのトークという2部構成を予定しています。
 
 

 

 
アンダースローは観客の観客による観客のための雑誌、『地下室』を創刊します。
 
 
アンダースローでさまざまな観客と時間を共にするうち、もっと雑多でとりとめのない言論空間が必要なのではないかと思うようになりました。言論空間なんて言わずに、ただ「おしゃべり空間」と言ってもいいかもしれません。劇場から網を投げ、個々の観客が身をおく環境に思いを巡らす。網をたぐり寄せるとき、あらゆる事象は観客と演劇が出会う劇場に戻ってくるのではないかと期待しています。
 
雑誌を発行するということはオオゴトですから、「草号」と名づけた創刊準備号を2016年9月以降、順次発行していくことにしました。雑誌『地下室』で取り組んでいきたい連載の一つに「なぜスタニスラフスキー・システムではダメなのか?」という企画があります。ロシアの演出家・スタニスラフスキーが開発した通称スタシスともいわれる演技メソッドは、アメリカに渡りアクターズ・スタジオに継承されて、舞台俳優のみならず映画俳優の基礎として全世界で学ばれています。
 
新しい雑誌の連載企画が、既存システムの否定で始まること、少々申し訳なく思っています。しかしながら、そのくらい攻撃的に出ないとのみこまれてしまうくらい、相手は大きいのではないか? というのが編集部の直観です。スタシスには観客が不在なのではないか? スタシスには神様しかいないのではないか? スタシスを否定することによって新しさを装いたいわけではありません。もっと根源的な問題、演劇とは何か、劇場とは何か、そして観客とは何か、ということを考えて行く上で、スタシスが切り口になるのではないかと思うのです。
 
雑誌『地下室』の創刊準備にあたり、まずはこの連載企画を取り上げ、そもそもスタシスとはなにか? という話から始めたいと思います。ぜひご参集ください。
 
 
雑誌『地下室』編集部
赤嶺宏介(編集)、井上彼方(営業)、田嶋結菜(制作)、松原俊太郎(主筆)
松本久木(デザイン)、三浦基(演出)